時代の変化とともに、マーケティングに求められる力は高度化しています。
企業の中には、「今までの手法では市場の需要に応えることができなくなってきている…どうすれば良いのか…」と新しい戦略を考えるのに苦労している企業も少なくないでしょう。
他にも、自社のノウハウを駆使して新しいマーケティング戦略を立てても、なかなか成果にはつながらず失敗続きという企業もいるかもしれません。
マーケティングで成果が出ないのには必ず理由があります。
うまくいかない理由を明確にし、その問題点をしっかり解決していくことこそ、マーケティング戦略を成功させる近道です。
今回は、マーケティング支援を行っている岸川さん、松谷さん、事業会社で働きその後フリーランスとして活動している小玉さんのお話を中心に、マーケティングのリアルな失敗事例や、施策の観点や人材の観点からの「マーケティングを失敗させないために必要な考え方」を紹介します。
〈3人の紹介〉
・岸川さん
→株式企業LTVマーケティング代表。
経営コンサルタントからBtoCサービスの成功報酬制広告運用に関わった後に起業。現在では、BtoB、BtoCに関わらず経営コンサルの視点と現場の視点をミックスした戦略から戦術まで一貫して実施している。
・小玉さん
→事業会社で10年以上EC部門の責任者を担当。ECサイトやメディアサイト、SNSなど幅広くWeb運営に携わる。現在はフリーランスのウェブアナリストとして活動。
・松谷さん
→株式企業ブレーンスタイル代表。
メディア企業、広告会社で広告領域を中心にデジタルマーケティング業務を経験。2018年に株式会社ブレーンスタイルを設立し、フリーランスのマーケターによる企業のデジタルマーケティング支援を行う。
マーケティング基本戦略の流れ
岸川さん:「私からは、マーケティング戦略面で失敗しがちなことについてお話しようと思います。マーケティングは【誰に届けるのかを考える】【自社の価値提供を意識する】【どうすれば最短距離で届くかを考える】といった3つの観点が大切になります。
よくSTP、4Pなんて言われたりするところなんですが、こちらがしっかり定まっていないとそもそも戦略として機能していないことになってしまうので、いくら施策を頑張ったとしても、誰にも届いていなかったり、誰にも刺さらなかったりということが起きてしまうんです。マーケティングが失敗した場合、施策をやっている側がうまく行かずに失敗したと思っているケースが多いと思うんですが、それ以前にマーケティングをやってくださいと発注する側が、しっかり市場について知らなかったがために失敗したというケースも結構見てきています。なので、ある施策について失敗してしまった時にデジタル広告やデジタルマーケティングの手法、業者などを疑う前に、自社として至らなかった点はなかったのかというところを振り返ることが重要だと私は思っています。
では、先程の3つの観点を踏まえて失敗パターンを7つほど紹介します。
①【誰に届けるのかがずれているパターン】
これは自社が顧客だと思い込んでいた方がデジタル上では顧客じゃなかったり、自社が競合だと認識していなかったところがデジタル上では競合だったり、そこに顧客を全部食べられてしまっているケースですね。本当は施策実行側も市場調査をした段階で【こういう競合がいる】【安くていいサービスをもう既に出している】などの情報を伝えてあげるべきなんです。自社としてその市場のリサーチを怠ってしまうと、実際にはオフラインの段階で競合していなかったところに、デジタルになった時に顧客の大半を持っていかれるということが起こってしまいます。
②【自社の価値提供が弱いパターン】
2つ目は【自社の価値提供が弱い】というところ。今までの対人戦だと、人による力で価値提供を無理やり伝えて受注するケースもあったと思うんです。しかし、デジタルでは完全に横並びで判断されます。ユーザーは1ページ1ページちゃんと比較して選んでいるんです。比較をして【やっぱりこっちのほうが名前としては有名だけど、あっちの方がサービスとしては良いよね】と伝わってしまった瞬間に、ユーザーは正直なのでそちらの方に流れてしまうんですね。なので、デジタル上で競合調査をもう一度やり直した時に【自社で伝えるべき価値提供がちゃんと伝わっているのか】【自社と同じような価値提供をもっといい形で伝えるような競合がいないのか】というところをしっかり見て、自社の商品のカスタマイズをすることが大事です。どうしても施策実行側が発注側の商品に触れるケースはそんなに多くないので【この商品でお願いします】と言った瞬間に負けているみたいなケースはよく見ます。なので、しっかり商品開発やパッケージの部分から見直さなければデジタル上では勝てませんというところが2つ目としてあります。
③【媒体の使い方、優先順位がおかしいパターン】
3つ目は【媒体の使い方、優先順位がおかしい】というところです。例えば、自社の商品がInstagramで刺さるような商品じゃないのに、Instagramが流行るからといって使ってしまうケースが少なくないです。デジタルの世界では、1年2年で新しい媒体が出てきているわけです。そういった媒体に流されてしまうと、戦略的に自社の商品と合ってないチャンネルにお金を投下してしまう形になってしまって失敗するんです。本来は受注側も【いや、うちの商品合ってませんよ】というのが筋ではあると思うんですが、やはりお金が欲しいというところで、受注できるものならしたいという業者さんが大半だと思います。なので、発注側にしっかり自社の戦略と媒体の価値、媒体とどううまくやっていくかを知っている人がいないと、発注時点でミスをしてしまっているケースも少なくないと思います。
④【予算が厳しいパターン】
予算が厳しいというところで、本来は30万円かけるべき施策を10万円でしかやらなかったケースもあります。業者さんも受注したいので、その予算の中で一生懸命頑張ってくれるとは思うんですが、ただできないものはできないわけです。例えば、予算を30万円取った時に、10万円×3ヶ月でやるよりも30万円を1ヶ月で試したほうが良いケースは往々としてあります。そのため予算の配分を見直さなければいけなかったという点は、実行側ではなくて発注側として意識しておかなければいけない点だと思っています。
逆に、施策実行側がとんでもないケースも多々あって、例えば知っている事例だと、結婚相談所でしっかり出張して話聞きますよと言っているのに、その結婚相談所にMEO、いわゆるGoogle Mapsの最適化を提案しているようなケースです。これは施策実行側が自分たちの商品を売りたいがために、相手にとって優先順位は高くないのに売ってしまうケースです。発注側もそこまでリテラシーがないので、カタカナ語でよくわからないし、なにかいい感じのことを言っているし、やってみようということでやってしまっているケースは非常によく聞きます。
⑤【単純に支援品質が甘いパターン】
例えば、最近聞いた話だとリスティング広告を提案して、LPも一緒に作りますと言っているのに、全部LPは画像の積み木だったケースです。シンプルに支援している業者さんが画像の積み木だと、リスティング広告ではキーワードがホームページにどれくらい入っているかというところで判断するので、アルゴリズムに則っていないようなLPを作ってしまうことになります。逆に言うとそこまでしっかり見通して戦略を作る実力がないということです。
⑥【ビジネスモデルが顧客目線ではないパターン】
例えば、SEOの企業で一生懸命SEOを上げるために色んな施策を打ってくれるんですが、解約した瞬間に今までつけてた被リンクを外すみたいなビジネスをやっているところがありました。こういう悪徳業者みたいなところも、施策実行側としてはたくさんあります。
⑦【部分最適のKPIに逃げるパターン】
例えば、リスティングで言えばやっぱりコンバージョンやCPOが合っているというところが1番いい結果だとは思うんですが、集客側のKPIだけ合わせようとするとCPAが良いですよっていう見せ方をして、広告効率高いんだなと、一見、判断はできるようなんですが、ただ全然ものにならない方が集客しても意味がありません。なのでCPAはとても良いけど、CPOがめちゃくちゃ悪いということになった時に、広告予算をできるだけ絞ってやれたほうが良いと思うんです。そういった判断ができない業者さんと、施策実行側がとんでもないことをしているっていうことが分からないっていうケースもあります。施策を発注する側が悪いケースもあるんですが、シンプルにとんでもないことをやってくる方もいるので、そこをうまく見極める方がいるかどうかっていうのは、1つ重要なポイントになるのかなって思っています。
戦略を考える上では、こういった施策の実行側が悪いのか、それとも発注側が悪いのかというところを見極めることが重要になるのと、それをしっかり翻訳する人を1人置くということろが重要になるのかなというところが、私のパートのまとめになります。」
【人材観点からの話】マーケティング人材を採用するのはどんどん難しくなっている
松谷さん:「僕の方からは、主にマーケティング人材観点からのお話をします。まず、前提なんですが、マーケティング業務ってすごく変化していて、ここ10年ぐらいでデジタル領域にすごい勢いで広がっています。なおかつ専門化、サイロ化が進んでいて、1人で全部対応するというのはあり得なくて、SEO、広告など領域ごとに専門化が進んでいて、それぞれがどんどん深くなってきています。また、マーケティング人材は最も採用が難しい職種の1つといわれています。
理由は4つ。
まずは、優秀な人材はそれなりのサラリーをお支払いしなければいけないということ。上昇志向の方が多いので、そこもすごく難しいというのがあります。
2つ目は入った後の育成の難しさ。中でキャリアプランをどう積んでいくのかをいろんな企業さんが悩まれています。大きな企業だと異動で全然違う部署になることもあると思うんですが、専門職なのでそのキャリアが無駄になってしまうこともあったり、転職する方が多かったりっていうのが採用に関わる悩みだと思います。
3つ目はこれはマーケだけじゃないかもしれないんですけど、就業意識の変化っていうのが大きいです。弊社はフリーランスの方と一緒に企業さんのマーケティングの支援をしていますが、フリーランスの方は一昔前のようにずっと同じ企業にいるとか、企業の中で職位を上げたいとか、そういうことにあまり意義を感じていない方が多いです。それよりも自分のスペシャリティーを伸ばしていこうという方が増えてきています。特にマーケティングだとどんどん尖っていけるっていうところもあるので、そういう方が増えてきているのが採用を難しくしていると思います。
4つ目はマーケティング人材、特にデジタルのマーケティング領域の方々は、みなさんデジタルリテラシーが高い。なので、基本業務をPCで行います。今コロナでみなさんリモート環境で業務されていると思うんですけど、そうなる前からリモートで業務やりたいです、やっていますっていう方が多かったりするので、いわゆる働き方が他の領域の方とは違うかなと思います。
次にさっきの専門化、サイロ化の話になるんですが、特にデジタルのマーケティングは、テクノロジーの進化に伴ってできることがどんどん増えて、やれる範囲が広がります。しっかりキャッチアップすることによって、そこの業務ができるようになります。その分できない人からすると、もう訳がわからない世界になってしまいがち。スピード感がすごく速いので、1年前、2年前と比べてももう全然違うということが普通に起きていますというところが特徴なのかと思います。専門化している上にどんどん進化して、そのスピードも速いってなると、ちょっと距離を置いた立場の人からすると、やっぱり本当にわからないっていうことになっているのが現実なのかなと思います。
キャリアプランに関しても、どうしても企業にいると現場をある程度やっていたら職位が上がって、上司的な立場になって、もうちょっと広い範囲を見ながら戦略を考えていくことはよくある話だと思うんですけど、そうするとどうしても現場のことが分からなくなって、自分自身で手を動かしてできなくなってしまうっていうことが起きるっていうのがあります。なぜかというと専門化が進んでしまうので、ディレクター的な立場になって1年、2年やった時に、実は現場を2年やっていないともうその現場の力がなくなってしまうからです。意外とそこに葛藤しているマーケターの方が多い印象があります。
あとは外部の活用の話をすると、基本的には社内である程度やっていても、例えば広告は広告企業に発注したり、外部を活用することは普通にあると思います。その中で、やっぱり社内にきちんと理解している人がいないと、どうしてもうまくコントロールできなくて、結果的に望んでいることが実現できないケースはよく見ます。我々は業務委託でフリーランスの方を活用してもらうサービスをやっているんですが、どう使ったら良いのかわからない、社員との使い分けがわからないという企業さんが多いです。先程専門家、サイロ化の話をしましたが、マーケティング業務は5年も経つと圧倒的に環境が変化します。テクノロジーも進化しているし、変化のスピードも速いからです。他の業種、例えば営業などはそこまでじゃないと思います。
私たちはフリーランスの方と会って面談をさせていただくんですが、ある企業でEC事業の責任者をやっていた方がいて、ECなので企画から実際の販売に至るまでのマーケティングのプロセスのほとんどを経験していらしたんですが、本人からちょっとあまり使えないと思うんですけどみたいな形で【でも5年前なので】と切り出してくるんです。聞いているこちらも、5年前のキャリアだと、正直そうですよねと思ってしまうんです。こう考えるとやっぱりこの領域って良くも悪くもすごいなと思います。だから、先程岸川さんが話していたように、人材の立場からしても周辺の方や企業の方からすると、マーケティングってよくわからないものになってしまっているのかなと思います。
ポジションの話でいくとディレクション人材になったのは良いけど、自分のスキルが陳腐化していくという矛盾があるようです。5年も経ってしまうと現場にはもう戻れないっていうことになるので、本当にキャリアの活かし方が難しいと感じます。
デジタル領域は変化のスピード感が速いので、今メジャーなサービスが来年には変わったりすると思うんですが、きちんと網を張ってキャッチアップして、マーケティングに生かさなければいけないと思います。それができないとやっぱりスキルが陳腐化しちゃうことにもなりますし、面白い反面、努力しなければいけない領域だと思います。
あとはリモート対応の話をすると、フリーランスの方って複数の企業で仕事をするパターンが多いのでリモート対応できるとすごく良いんです。マーケティングの仕事はPCだけあれば実はどこでもできる仕事なので、リモートに向いている仕事だと思います。ただやっぱり企業側の理解が追いついていないんです。特にコロナ前は絶対に会社に来て欲しい、この時間は居て欲しいっていう要望が多くありました。出社して常駐する事は効率的ではないし無駄が多いんですけど、なかなかご理解いただけませんでした。コロナの影響で多くの企業がリモートにシフトして、フリーランス側としては嬉しい話になっているんですが、そういったところも含めて企業側の意識が変わっていくことが、結果的にマーケティングの業務プロセスや成果に変化をもたらしてくれると思います。
採用が難しい中で良いマーケターの方を確保することが重要だと思うんですけど、どうしても社員を採用するとお金がかかりますよね。でも外部人材を活用すると1人分の費用で3人分の契約ができます。きちんと業務を切り出せれば、週5日間、その業務に対峙する必要がないんです。正社員って報告したり会議に出たり、本業以外に携わっている時間が長くそういった時間を切り落として、広告の運用やSEOなどきちんと業務を切り出せば、週5日じゃなくて2~3日分(稼働率40~60%くらい)でプロの人材を雇うこともできると思います。そこに気づいている企業さんが少なくて、どうしても正社員で一任したい、1人だけ採用したいっていう企業さんが多いです。シフトチェンジを進めるとマーケティングがうまくいくようになるんじゃないかなと思います。
他にもマーケティング全体がうまく回るために適材がどういう人材か、どこに配置するべきかなどうまく設計できていないと、結果的にマーケティングが上手くいかないということにもなるので、外部の人材を使うにしても設計の部分が重要になるでしょう。
事業者視点でのマーケティングが失敗する理由
小玉さん:「メーカーでの勤務歴10年以上で比較的長い部類にはなると思うので、私からは事業者側の視点でマーケティングの失敗要因についてお話します。
まず、大前提として、マーケティングに成功した企業とは失敗も経験していると思っています。失敗した要因をしっかり把握、修正して、成功に近づけているんです。大切なのはPDCAのチェックとアクション。ここをしっかりやらないと失敗の要因もわからないですし、成功したかどうかも曖昧になってしまいます。できない要因を突き詰めていくと、私の経験上では人に起因する場合が多いように感じています。
例として4つ挙げてみます。
①【マーケにどんな業務があるのかわからない】
これはそもそもどんな人を採用したら良いのか分からないっていうのもあると思うんですが、どんな業務があるのかを把握するっていうのが大切です。
②【担当者が異様に忙しくPDDDになってしまう】
とにかくDoだけをやっているケースです。マーケといっても範囲が広いので、業務範囲が広くなると打ち手の実行だけに目がいってしまって検証の時間が取れないということになり、失敗なのか成功なのかの判断が全くできない状態になりがちです。
③【担当者が長続きしない】
②の通りDoに注力して施策を実行しても、成果が曖昧で評価されない状態。KPIも設計されていなくて、さらに人事評価の観点でも設計が整ってないと、結果離職に繋がってしまうということもあると感じます。
④【他部署からコンバートされていて知識がない】
知識がない場合は往々にしてネットで検索して、その打ち手を真似してみるということになりがちです。組織、商品、サービス、顧客、全て違うので他社の事例をそのまま真似ても、うまくいかない。その結果、失敗ということになるんです。
では次にどうしたら良いのかということになるんですが、人を採用するなり外注するなり内部で解決するなり、自分たちに足りない要素がなにかっていうのをまずしっかり把握すること、つまり現状認識が大事だと思います。これをするだけでも、マーケティング活動の成功につながる確率が高くなると思います。裏を返せば失敗する確率を減らすことにもなります。
どう決める?守備範囲について
岸川さん:「守備範囲について、私は外注として関わることがほとんどなので、松谷さん、小玉さん、それぞれの立場から意見を聞いてみたいなと思っています。」
松谷さん:「僕も外注でもあり採用にも近い立場なんですが、守備範囲って難しいなと思っています。一応客観的に見てるつもりで、【それは外注したほうが良いでしょう】と思うんですが、意外と違う判断をする企業さんが多いです。結局自社のマーケティングをどうするかの設計がうまくできていないことが、守備範囲の定義にも影響を及ぼしているのかなという気がします。
最近お話した企業さんから基本成果報酬型で全部外注に丸投げしていて、うまくいかないと変えるというお話を聞きました。マーケティング的にはノウハウも残らないしとしてはどうなんだろうと感じました。守備範囲は大切だけど、全く気にしない例もあるんですね。小玉さんいかがでしょう。」
小玉さん:「松谷さんがおっしゃる通りかなと思います。業務を担当する期間が長くなればなるほど、担当者とも仲良くなったり、コミュニケーションのレベルが上って色んな話をするようになります。そうすると悪気なしに、あれやってこれやってとグレー部分が増えてしまう。その結果、本来自分のやる範囲がどんどん増えてしまったということはあると思います。私も業務委託の人間として、相談にはのりますが成果に直結しない業務は受けないように注意していますね。」
松谷さん:「逆に守備範囲ってどうやって決めるんですか?」
小玉さん:「自分の周りでいくとヒアリングの段階でちゃんとこれはやる、これはやらないっていうように、お互い握りを明確にするようにしています。それをちゃんとやっておかないと問題に発展してしまうこともあるので。【ここは小玉さんが持ってるKPIですよね】といった線引きが分かるようにしています。」
松谷さん:「インハウスと外注があって業務委託ってその中間ですけど、中間なので一旦置いておくとして、インハウスと外注はどっちが良いんですかね?」
岸川さん:「私は基本的に担当は置けないというか、営業と兼任してますみたいなマーケティングの担当はあまりおすすめしていないです。それであれば外注してくださいっていう話はしてますね。特に営業と兼任している場合は営業が成果報酬や歩合のケースも多いので、マーケに携わっている時間だけ自分の給料が減るっていう捉え方をしている人も少なくありません。そういった体制である場合は基本的にはもうインハウスするのは諦めてくださいっていう話をよくします。」
松谷さん:「やっぱり必ずしも良し悪しを判断できる専門家がいないっていうのが問題ですよね。」
小玉さん:「そうですね。やっぱり一言にマーケティングって言っても広いですもんね。」
岸川さん:「1つ不思議だと思ったのは業務委託と外注両方使っているケースでどっちがイニシアチブを取るのかっていうところです。業務委託のほうがその発注者さんに対してしているので、コミュニケーションは取りやすいと思うんです。しかし、施策に対する知識は外注さんのほうがあったりするのでこの2つって意外と共存できそうでしにくいっていうのがあると思います。私が関わってきたところはあまりそういったチーム自体が大きくないので、どっちかのケースが多かったんですけど、お2人は業務委託と外注が共存しているケースってみたことありますか?」
松谷さん:「それは必ず共存してますね。実は僕の経験上、外注0っていう企業はないです。今の岸川さんの話でいうと、うちでお手伝いしている企業さんの場合はどっちかっていうとうちから支援している業務委託のほうが外注に発注するところも含めて、インハウス側につくパターンが多いですね。」
岸川さん:「切り出しとしてはもう外注は外注で施策実行に注力してもらって、業務委託の方がコミットメント度が高いので、戦略にいったり、商品変えたりっていう役割分担担っているケースが多いってことですかね。」
松谷さん:「やっぱり外注の方が色んな意味でリテラシー高いと思うんですよね。そこが問題というか、インハウス側も知識をつけていかないといけないと感じます。」
岸川さん:「そうですね。なので中小企業の場合は完全に外注すると一気に切られた時に大変になるので、少なくとも経営者がコミットしてないといけないし、その業務委託が仮にいなかった場合は、経営者がコミットしてないといけないのかなっていうのはありますね。」
松谷さん:「完全な丸投げってうまくいくんですかね?」
岸川さん:「たまたまその戦略と施策がはまってたケースはあるのかなと思っています。結局最適化をしていく段階でコミュニケーションだったりとか、市場の状況をみて商品を少し変えたりとか、見せ方や使い方を変えるっていうところが発生してくるので、そこが握れている外注なら良いと思うんですけど、ただ施策だけやってたまたまはまったケースだと多分6ヶ月後にはうまくいかなくなってるだろうっていうのは感覚としてあります。」
松谷さん:「なんでリスティングなのかよくわからないんですけど、リスティングって言われたからリスティングやりますみたい感じで、丸振りされているパターンって多い気がするんですよね。」
岸川さん:「そうですね。中小企業だと外注が主導して内部や経営者を巻き込んでいることもあるんですけど、大企業の場合は、ものはこれで決まってますみたいな感じで【広告だけお願いします。予算1,000万つけます】みたいなケースが多いですかね。そういうところは資本の力で殴ってくるので、よくわからないですけど、ただ中小で同じことをやろうとすると、厳しいのかなと思います。」
松谷さん:「話がずれますが例えば予算1,000万だったら、本当は全て消化しなくてもいいけど、業者の方はやっぱり1,000万使いますよね?」
小玉さん:「それってどうなのかなっていうのは、今の立場になると思いますけどね。」
岸川さん:「ただそれは業者の問題ももちろんあるんですけど、広告媒体の構造の問題もあります。例えばFacebookの場合は予算をコントロールしようとすると、日予算決めて、Facebook広告の動きがその日の予算を全部消化するように動きます。出し方のコントロールが業者側でできないっていうところはどうしてもありますね。」
マーケティング施策の未来
岸川さん:「マーケティング施策の未来でいくと、まずはYouTubeをよく施策として使っていることが多いんですがYouTubeのアルゴリズムってすごいんです。何がすごいのかというとSEOの話になるんですが、まずYouTubeだと初日、1本目から100再生出るっていうのが普通に起こるんです。一方でSEOでアカウントパワーが無くて1本目だして100アクセスいったら、それはものすごい数だと思うんですけどそういうことが平気で起きているっていうのが1つです。もう1つはYouTubeのアルゴリズムがいろんな人の感情を反映していて、例えばサムネイルからのクリック率だったり、視聴維持率だったりとか、リアルな動きがデータで出てきていて、それがアルゴリズムに反映されて、既存のファンを大事にしているほどアクセスできる人が増えていくっていう仕組みなんです。
これを見た時にこれから小細工みたいなものってどんどん通用しなくなっていって、本当に良いコンテンツにしか人が集まらないようなアルゴリズムになっていくんだと思いました。そういう意味では広告のアルゴリズムや外の媒体のテクニカルなところに注力するより、本当に良いものを作ることに1番力を使うのがこれからのマーケティングになっていくんじゃないかなと思っています。」
小玉さん:「レコメンドみたいに自分が今まで見たサイトで興味や関心があるものに関連してどんどん出てくるっていうのは良い反面、興味の範囲外にあるようなものも見てみたいっていう気持ちがあったりはするんですが、そういうところも今後将来的には反映されていくんですかね。」
岸川さん:「それでいうとTikTokはランダムなんですけど、視聴は3~6秒くらいで興味があるかないかのラインがあるんです。ちょっと興味あって見てみたくらいのものが6秒以上視聴しているとだんだんアルゴリズムの中に出てくるようになっているんです。なのでYouTubeのアルゴリズムとはちょっと外れているかもしれないですが、TikTokみたいなレコメンド100%のところで、細かく自分の興味外のものを試しに出していって、少しずつ視聴されていく体験が出てくるとすると、自分の知らない範囲のものもどんどん見れるようになって、マッチングするようになっていくのかなという印象はありますね。」
松谷さん:「お話聞いていてどんどんそちらに進んでいく気はしますね。Googleも一貫して良いコンテンツっていう言い方をしていますし。自分の意志で選んでいたものがよりレコメンドによって選ばさられていくようになるでしょうし、そこを目指してるでしょうね。」
岸川さん:「そうですね。【Google広告設定】と検索するとGoogleに自分がどういう属性として認識されているのかラベルで出てくると思うんですけど、YouTubeがそれを収集していて、似たような属性の行動パターンを把握して、これが好きな人だったらこれも見るだろうっていうのをデータとしてためて活用しているんです。この動きが今一番凄いのが中国で、中国って人も多いし一気に人が動くのでビックデータがすぐに集まります。実は、TikTokのアルゴリズムが今1番進んでいるんじゃないのかなと思っています。海外版のTikTokでは、ちょっとでもそのジャンルに興味ないとなったら出さないような工夫もされているらしいです。他にもWeChatなどは中国では完全にスーパーアプリ化しています。日本でちょっとスーパーアプリ出そうとしてるだけで沸き立ってますけど、中国でスーパーアプリは当たり前です。多分日本は、あと5年位かかってやっと今の中国に追いつけるかどうかくらいの感覚です。なので、未来に起こりうるものとして、マーケターがコンテンツを考えなければならないっていうのはあると思います。そもそもコンテンツを生み出せる人はみんなマーケターになるので、クリエイターの文脈がそのままマーケティングに持ち込まれるでしょう。今の若い世代ってマーケティングのこと何も知らないんですけど、マーケティングを体現しているんですよね。」
松谷さん:「それは感じます。一昔前のクリエイターってマーケティングのデータはあまり気にしない方が多かったんです。でも直感的に理解しているんですよね。全然知らないんだけど、言っていることはすごく正しいみたいな方がたくさんいらっしゃいました。今の若い方も、知らないでTikTokやってるんだけど、マーケティング的に体現している方が結構増えてきていてすごいなと思いますね。」
岸川さん:「そうですね。なのでクリエイターがそのままマーケターになるんじゃないかと思っています。」
松谷さん:「クリエイティブもわかって理論武装できたら、最強だと思いますね。」
企業によってぜんぜん違う?スキルについての評価
松谷さん:「僕、立場上何百人ものマーケターにお会いしているんですが、もちろん評価する方によって主観が違うことを前提で話しますと、やっぱりこの領域はご自身がこれできます、あれできますっていうことと、外部からの評価には結構差があると感じます。実はスキルに関しての認識のギャップがすごくあるんです。だからこそ認定試験のような客観的に自分のスキルを知れる機会がもっとあると、スキルの評価も横並びで一定になるのかなという気がします。」
岸川さん:「このあたりってあまり共通言語ないんですかね。」
松谷さん:「ないと思います。」
岸川さん:「それともやることが多すぎてどんどん増えていくので誰も把握していない感じですかね?」
松谷さん:「例えばSEOっていってもみなさん言うことが違うし、企業によっても評価価値が異なったりするじゃないですか。それが1年、2年経つと更に変わってみたいなことがずっと続いているんで、実は評価軸ってすごく難しいなと思います。」
小玉さん:「事業会社視点で言っても、やっぱり人事評価は人事も苦労しているところだとは思うんですけど、聞いたことがある話では入社したタイミングで、営業の評価シートやマーケの評価シートが一緒だったという話を聞いたことがあります。人事の人も知見を広く、現場でどんな業務があるのかを分かっておかないと、人事評価もなかなか厳しい時代になってくるんじゃないかなと思います。」
岸川さん:「一方で今の時代必要とされているスキルが半年後に必要なくなるみたいなケースもあるので、人事評価にカチッとデジタルマーケティングの施策ベースの評価を入れてしまうと、難しいのかなと思います。事業者視点でどんな評価軸があればとかってありますか?」
小玉さん:「プロフィットを出す部門はわかりやすく、売上っていうのがゴールにあって、KPIも各々が設定するっていうパターンが多いとは思います。私はECを担当していたので、セッションと単価と転換率でKPIを設定するようにしていました。販売が絡む部署は、基本的には来客数と単価がKPIとして設定されてる場合が多いと思います。基本、KPIを必死にやっていけば、ゴールは自ずと達成できる指標を設定するのがよくあるパターンなのかなと思います。」
岸川さん:「ECの場合、たしかに売り切りなので営業と同じようなKPI設定をしてもそんなに違和感ないですね。」
小玉さん:「そうですね。より評価を細かくしていくと全然ずれていくとは思うんですが。」
松谷さん:「じゃあ逆にECの中でも何人かいらっしゃって、それぞれ担当が違ったりして、横であっちが評価付きやすいとかあったりするんですか?」
小玉さん:「そこに関しては、例えばアクセス数が評価の比重が多い人達であれば、どこから入ってきたアクセスかなどいろいろ定義はあると思うんですけどね。特に、外部要因でいきなりアクセスが上がってた場合は、運が良かったということになってしまうので、いわゆる外れ値みたいな突出した部分をうまく平均化して評価することは大事かなと思います。」
松谷さん:「広告企業だとよくあるんですけど、オレオレ詐欺みたいな感じで【あのキャンペーン俺がやった】っていう人が10人、20人いたりするんです。誰がやったか問題みたいなのはありますね。」
岸川さん:「企画した人なのか、現場でディレクターやってた人なのか、作った人なのかみたいな話ですね。」
小玉さん:「やったっていう定義がそれそれ違うんでしょうね。」
岸川さん:「UX、UIっていうのはデザイン視点で語られることが多いんですけど、マーケターの必須スキルだと思っていて、このあたりって評価軸に入るのか疑問で。UX、UIやっても、【ここのクリック率が高まりました】っていうデータをちゃんと出しているところってそんなにないじゃないですか。このあたりは、デザイナーの範囲になっていて、マーケターとしての評価はされていないのか、どうなんでしょうね。UX、UIの観点を持ってるデザイナーさんはいないかと思うんですが…」
松谷さん:「そういうデザイナーはいないのかなって。実際意外といないですよね。」
岸川さん:「そのデザイナーさん、マーケティング視点も持ってディレクション力までが必須スキルとして求められてるんですかね。」
松谷さん:「そこまでの定義をしている企業はほとんどなくて、UX、UIに長けた、いわゆるデザイナーが欲しいという場合が多いです。やっぱりデザインに軸足がある方が多いですね。」
岸川さん:「この前も違う経営者さんと話をしていて、UX、UIを突き詰めようとすると、認知心理学とか行動経済学とかそのへんもかじっていないといけないなと思いました。」
松谷さん:「それ結構難しくて。以前そこに長けてますっていうディレクターを企業に紹介したことがあるんです。ただ、企業側からは【この人、デザイナーじゃないでしょ】という返答が来ました。」
岸川さん:「スキルセットとしては、その視点だけでもあれば成果が出ると思います。個人的にはマーケターの範疇なのかなと思います。」
松谷さん:「そこをちゃんと評価できる上司がいる企業はあまりないような気がします。」
岸川さん:「結局はどういうスキルセットが今ハマるのかをきちんと言語化して、共通軸みたいなものがないといけないのかなと思います。」
松谷さん:「言語化できたら、必ずマーケティングはうまくいくでしょうね。」
岸川さん:「経営者なのか、業務委託なのか、内部の人間なのか、ないしは外注で提案してくれる人なのか、どこかしらに翻訳できる人を必ず置くことが大切ですね。失敗を減らすための1番のポイントなんじゃないかなと思います。」
まとめ…マーケティングに失敗しないためにはしっかり人材設計をすること
マーケティングの成功している企業は、必ず失敗を経験しています。失敗したから諦めるのではなく、なぜ失敗したのかを明確にすることが大切です。
マーケティングの失敗要因は大きく3つ。
・自社のマーケティング上の課題を言語化できていないこと
・マーケティング、デジタル領域は常に変化を遂げていて、そのスピードも速いこと
マーケティング領域は、常に変化があり、そのスピードも速いために、周囲から「何をやっているのかよく分からない」という印象を持たれがちです。
日本企業では、人事異動などでマーケティングについてよくわからないまま業務を進めてしまっている人も少なくないでしょう。
マーケティング全体がうまく回るためには、どういう人材が適材なのか、どこに配置するべきかなどうまく設計する必要があります。
しっかりと人材設計することで足りない部分が明確にでき、外注するべきか、業務委託するべきかの判断をすることができるでしょう。
マーケティングの失敗を減らすための1番のポイントは、マーケティングについての知識をもち、そのような判断ができる人材を「経営者」「外注先」「内部」「業務委託先」などどこかしらに必ず配置することです。
マーケティングが成功せず困っている方は、自分の企業の人材設計がきちんとできているか見直してみてはいかがでしょうか。