情報やモノが溢れる現代で、競合との差別化を図りながら、お客様のニーズに応えていくためには、マーケティングが必要不可欠と言っても過言ではありません。
しかし、マーケティングと聞くと「マーケティングって具体的にどんなことをしているのかわからない…」「マーケティングを始めたら、どれくらいで成果が出るの?」など疑問が出てくるでしょう。
今回は、社員・フリーランス・雇用主3つの側面からマーケティングを経験している青柳さんのお話を中心に、マーケティングという仕事に対しての考え方やマーケティングで大切な投資の考え方、マーケターとしての働き方などを紹介します。
〈青柳陽介さんの経歴〉
キッズ・ラボラトリー株式会社
代表取締役社長
25歳から社会人。松下電器産業のグループ傘下の企業で、コールセンターシステムや通信販売管理の業務システムをセールス。38歳でベンチャー企業に執行役員としてジョイン。マザーズ、東証1部と経験。CMO、社団法人の立ち上げを経験後、42歳で独立起業。
通販関係の講演における参加者は延べ4,000人以上
福岡大学など教育機関でも講演
インプレス社、ネット担当者フォーラムで記事寄稿
Yahoo!コラムなどにも掲載実績あり
読売新聞、日本経済新聞など大手メディアからの取材実績あり
※詳細→ポッドキャストはこちらから
青柳さんのマーケターとしてのキャリアと得意領域
インタビュアー:「青柳さんのマーケターとしてのキャリア、得意領域についてお話しいただけますか?」
青柳さん:「私は25歳で社会人になって、最初の会社ではセールスとして、色んなシステムを販売していました。その中で、ある時から自分でイチから開発してお客さんに納品することで【ありがとう】って言われるのが楽しいと思うようになって、マーケティングを意識し始めるようになりました。
38歳でベンチャー企業に執行役員として入って、その会社でいわゆるBtoBのリードを獲得するというミッションをもらったんです。新規のお客様をどんどん獲得しながら、既存のお客様のエンゲージメントを上げるということを仕事としてやってきました。マザーズ東証一部等を経験して、CMOという肩書で、最終的にその会社を辞めました。
辞める途中で、マーケティングの力、知っていたノウハウを生かしてゼロから社団法人の立ち上げ、各メディア様、テレビなどの取材も頂きました。その後、42歳で独立起業をして、今は、おもちゃのレンタルサービスを主体とする会社を経営しています。」
インタビュアー:「マーケティング歴でいうと何年くらいになるんですか?」
青柳さん:「30歳くらいからなので、もう13年目です。」
インタビュアー:「得意領域でいうと、先ほどお話があったBtoBになるんですかね?」
青柳さん:「はい。BtoBのリード獲得が1番得意としているところです。デジタルとアナログ両方使うんですが、デジタルなら、お客様になるべくコミュニケーションの接点ポイントを持って、Webサイトに来てもらって、データを基にお客様に提案するという形です。
一方、アナログだと、昔はよくセミナーを日本全国でやっていました。いろいろなところで我々が提供しているサービスの価値をお客様に伝えながら、その価値に共感していただくことによって、結果として我々のサービスを利用してもらう形でした。
私は、会社の広告塔となって、いかに我々のサービスが優れているのかっていうのを、エバンジェリストとして、色んな人にお話しするというのが得意な領域です。」
インタビュアー:「青柳さんの当時勤務されていた会社はベンチャー企業ってことなんですが、初めは、マーケティングを担当するスタッフは何名くらいいたんですか?」
青柳さん:「私とインターンの子、1人です。」
インタビュアー:「基本的にはお1人でやってた感じですか?」
青柳さん:「ですね。ただ、インターンの子がすごく仕事ができたのもあって、だいぶ助けてもらったかなという感じです。」
インタビュアー:「結構、試行錯誤というか、トライアンドエラーしながらやっていた感じなんですかね。」
青柳さん:「そうですね。毎日が試行錯誤の繰り返しで、朝決めたことを夜に翻すみたいなことは当たり前でした。良いと思えばすぐに方向を変更するのも、スピード感を持ってやっていた仕事の1つです。」
マーケティングとはどんな仕事か
インタビュアー:「マーケティングって外から見ると華やかなイメージがなきにしもあらずだと思うんですが、青柳さんの感覚としてはどんな仕事っていうイメージですか?」
青柳さん:「もう泥臭いですね。外に華やかなイメージを見せているだけで、中は綿密なデータの積み重ねとデータの整理です。
欲しいデータが取れるような仕掛けを随所に設けておいて、取れたデータを基に、戦略と戦術を立てて、それをきちんと実行していく。
実行した結果、いけるものあるし、いけないのもある。いけるものは当然スケールアップできるようにお金や人をいれますし、いけないものはすぐに諦めをつけるのも大事です。
どこまでやったら見切りをつけようみたいなものは日頃から考えているんですが、泥臭いし、外から見たら何しているかよくわからないみたいな感じです。」
インタビュアー:「マーケティングって外から見るのと中側が結構違いますよね。他の部署から、何しているかわからないっていうお話があったんですが、そういうところってやっぱりありますよね。」
青柳さん:「そうですね。私自身は評価を気にするタイプじゃなかったのですが、部署としては、一緒に働いているメンバーがそういう風に見られているのはよくないって思うこともありました。
当時、ある大手の会社さんからCAC(Customer Acquisition Cost)っていう言葉を教えていただきました。新規事業で続けながらコストが下がれば、やっていることとしては正しいというような仮設が立つよねということを教えてもらって、それを早速真似しましたね。」
インタビュアー:「いわゆるPDCAの考え方がありますけど、それを本当に回していくって、回す立場はやっぱり大変じゃないですか。」
青柳さん:「やっぱり権限と責任とお金はセットだと思いますし、責任も当然あるんですが、ある程度自由にできたのと、私が前にいた会社の経営のメンバーがみんなもうマーケターみたいな人だったので助かりました。
ポイントとしては、投資の考え方があったってことですね。これくらいお金を使えば、これくらい返ってくるみたいな考え方ができる人が何人もいたことが、私としては非常にわかりやすかったです。」
マーケティングに欠かせない「投資」の考え方
インタビュアー:「やっぱり、マーケティングは投資の考え方が大事だと思うんですが、リターンのタイミングってすぐに返ってくるものもあるでしょうし、時間がかかるものもあるでしょうし、やっぱりそのへんの周りの理解、特に経営層の理解ってすごく大事かなと思います。」
青柳さん:「前の会社だと4半期ごとに合宿で、地獄の会みたいなものがありまして。ホテルに泊まり込みで、ずっと事業計画とか、未来の施策とかを話し合いながら、予算の取り合いだったり、人員の取り合いをしていたので、そういったところで戦略の練り直しっていうのができていましたね。
全てがうまくいくわけがないので、マーケターとして重要なのは、そのへん尖ったアンテナを持ってて、辞めたほうが良いかなと思ったらすぐ辞める、すぐ変更するっていう臨機応変な対応が求められるのかなと思います。」
インタビュアー:「臨機応変っていう話がありましたが、手法も数年経つと変わったりしますし、新しいものもどんどん出てきます。その中で、判断するのは難しいですよね。競合の会社もあったりすると思いますが、あそこはこれやってるとか、そういう研究は結構されましたか?」
青柳さん:「いや、あんまりしていないです。言い方がちょっと失礼かもしれませんが、我々が一番尖っているし、最先端をいっていると思っていました。こんなことをやっている会社は多分ないと思うような施策をやったり、少し荒っぽいリード獲得の仕方をやっていたので、その成果っていうのはあまり見ていなかったです。私の性格的に他の人とは比較しないっていう考え方があったので、よそはよそだよねという感じでした。」
インタビュアー:「結果的に所属されていた会社が成長していたということは、マーケティングもうまくいっていたと思うんですが、一番の要因は何だったと思いますか?」
青柳さん:「ご支援している会社のマーケティングに関しても思うんですが、成功するところはコストの考え方が非常にクリアな会社が多いです。
例えば、マーケティングだと名簿。お客様の名刺とか名簿とかを集めることが重要なので、1人獲得するのに5,000円かかるみたいな感じで、コスト計算をしていて、この金額までだったら青天井でお金を使っていいみたいな感変え方でやっているところはみんなうまくいきました。
逆に、マーケの予算が限られていて、その中であれもこれもやってくださいみたいなところは大体うまくいかない感じが強いです。お客様との接点は、それぞれ異なるので、個々のお客様に対して我々がどんな価値を提供できるかっていうのは常日頃考えています。
価値提供の仕方を、お客様との付き合いの中で全部変えていきましたし、付き合いが広がる中で我々のことをもっと知ってもらい、好きになってもらえるようなコミュニケーションは、かなりやっていました。」
青柳さんがマーケターとして、他社をサポートした経験
インタビュアー:「ご自身でマーケターとして半分フリーランス的に外部の立場からある会社さんのマーケティングを手伝うっていう経験もされていますが、青柳さんにとってどんな経験でしたか?」
青柳さん:「他の会社に私が教えるってことは、自分自身が理解できていないと教えられません。だから、私の会社のためにもなりましたし、私自身のことをブラッシュアップする機会にもなりました。人に、ここはこうした方が良いとかアドバイスできるってことは自分自身のためにとっても良かったです。」
インタビュアー:「とはいっても、ご自身の会社でやられている時と、当然社風も違うし、それこそ経営者、マーケチームも違いますよね。苦労などはありましたか?」
青柳さん:「ぶっちゃけいうと、教えたことを実践してもらうことが1番難しいです。まずはやってみないと駄目だと思うんです。マーケでご支援させていただいている会社の中に、【いや、それはできるから】とか【それはやったことあるから】とか、手を動かさない方が一定数いらっしゃるんですが、ぶっちゃけうまくいかないです。
1回経験があっても、失敗すればすぐやめればいいからという感じで、とりあえずもう1回やってみようという姿勢が大事だと思います。手を動かさないから、みんな得意にならないし、自分のスキルアップにもつながらない。やっぱり、自分自身が出来て、背中を見せれるようにならないと、マーケターとしては難しいんじゃないかと思います。」
インタビュアー:「たまに、最短距離をすごく求める方っていらっしゃるじゃないですか、すぐ結果出してみたいな。」
青柳さん:「最短距離なんかないですよ。泥臭くやるしかない。」
インタビュアー:「ないですよね。そんなに簡単じゃないっていうか。本当におっしゃると通りだと思います。」
青柳さん:「まずは、ゴール設定がおかしいんじゃないですかね。ゴールを決めて、KGIがあって、そこにマイルストーンとKPIがあるわけなので、その部分を考えずにゴールだけ決めて最短距離を求めてしまうと、現実的ではない話も出るでしょうし。
マーケターとしてやっていくのであれば、自分自身がやれる、やってできたっていう経験がないとなかなか施策立案をやろうという気にはならないかもしれないですね。」
マーケティングを始めて、どれくらいで結果がでるのか
インタビュアー:「例えば、うちみたいな会社がマーケターの方を紹介して、仕事していただく場合、クライアントから【マーケティングをちゃんと始めて、どれくらいで結果が出るの?】と質問されることもあるんですが、どう思われますか?」
青柳さん:「どうでしょうね。求められることにもよりますが、半年から3年。コミュニケーションのタッチポイントが、やっぱり重要だと思うんです。教科書的には、お客様との接点回数以上に売上は上がらないっていうのが基本的な考えです。
最短を求めてくる会社さんは、お客様との接点、コミュニケーションポイントもないし、いわゆる導線がぐちゃぐちゃだったりするんです。例えば、セールスとお客様が話すような場がないことも普通にあるので、ちゃんと接点を作って、そのレールに乗っけるのには3ヶ月はかかるし、そこからってなるとやっぱり半年くらいはかかるなという感じはします。」
マーケティングのうまい会社とは
インタビュアー:「青柳さんからみて、マーケティングの上手な会社ってありますか?」
青柳さん:「言っちゃいますけど、CINCさんはマーケティングうまいと思います。CINCさんが提供なさっている営業の内容って、最先端の情報がちゃんと入っていて、本当だったら契約しないともらえないような情報なんじゃないかって思う情報を無料で公開しているんです。個人的にはすごいうまい会社だなと思っています。
そういう情報がずっと来ると、信用しちゃうんですよね。私自身、会ったことないのに、その会社がすごくよく感じました。
他にも、アナグラムっていう広告の会社さんなんですが、すごい提案をしてきて。我々、インターネットで販売しているので、色んな広告代理店から営業が来るんですけど、アナグラムさんからは、うちのサイトを見て、勝手に勉強会のネタとして使わせてもらいましたっていう連絡が来たんです。
月間のコンバージョンはこれくらい、広告費これくらいで、こんなマーケティングをしているんじゃないかっていうのがずらっと書いてあって、その仮説に対して、アナグラムさんだったら、うちにこんな価値提供ができるっていう提案がある日突然きたんです。」
インタビュアー:「すごいですね、それ。」
青柳さん:「アナグラムさんのように、ちゃんとうちのことを見て、本当に勉強会に使ったんじゃないかと思うようなレベルの提案が来ると、心が一気に奪われますね。
普段、しょぼい連絡ばかりでお腹いっぱいな時に、お客様に刺さるものをスパンと持ってこられると、ゲームチェンジができるようなこともあるんじゃないかなと思います。」
マーケターとしての働き方とはどのようなものか
インタビュアー:「今は、ある種マーケターを雇用する立場だと思うんですが、青柳さんは、ご自身が社員として、マーケターとして働いていたこともあるし、フリーランスのような形で働いていたときもありますよね。3つの立場でみた時に、改めて、マーケティングの働き方っていうのはどのようなものだと思いますか?」
青柳さん:「マーケティングの力っていうのは、会社員だろうが、経営者だろうが、いろんなところに応用できるスキルセットじゃないかと思います。
フリーランスでマーケティングを力を使う時にどういうポイントが必要かなと思えば、やっぱり売上が欲しいってことになります。極端な話、売上を上げるための戦略立案ができたり、施策を回せる人のほうが市場価値としては高いんじゃないかなと思います。
ただ、マーケティングの売上の上げ方は、お客様から【ありがとう】と言われるように、エンゲージメントを上げながらやっていくようなユーザーの獲得の仕方っていうのが、今後は求められるんじゃないかなと思います。」
インタビュアー:「とはいえ、まだまだ本格的にマーケティングに取り組んでいる会社って意外と少ないような気がするんですが、そのへんはいかがですか?」
青柳さん:「お客様の声を聞いていないからだと思うんです。うちの会社も、最近までレビューにボロクソ書かれていたんですけど、試行錯誤して、経営・ビジネスの評価は4.4くらいまで上がっています。
これはやっぱり、我々がお客様を見ずに事業運営していたっていう失敗の考え方があるんですけど、マーケの話でいけば、壊れた窓理論っていうのがありまして、悪いレビューが多くなれば悪いレビューが増えて、良いレビューが多ければ良いレビューが増えていくっていう思想もあって、それを応用したんです。
やっぱりお客様の答え、求めていることを聞かずに、サービスを運営すると痛い目を見るっていうのを実感したばかりです。」
インタビュアー:「そのへんが、企業がもっとマーケティングに取り組むための鍵になるんですかね。」
青柳さん:「メーカーさんだったら、やっぱりお客様に言われた機能を実装しないと、それは市場の価値が全くないということになります。
ファイナンスみたいに無形商品を扱っている会社だと、どういう価値があるのかっていうのをクライアントに対してきちんと提供できていないと何のためにいるのということになってしまいます。
最初の事業戦略のところで、マーケターとセールスの役割を決めて、横渡しできるような組織づくりを最初にすることと、お客様あっての売上なので、お客様の声をしっかり聞くという考え方が必要だなと思います。」
青柳さんにとっての「マーケティング」とは
インタビュアー:「勉強になりますね。ありがとうございます。では、最後に究極の質問をさせていただきたいのですが、青柳さんにとってマーケティングとはどういうものですか?」
青柳さん:「お客様とやり取りするための手法です。マーケティングがないとお客様とやり取りする方法がわからないんです。マーケっていうのは投資で、お客様とコミュニケーションをすることで、2回目につながったり、他の人に勧めてくれたり、その人がテレビで喋ってくれることもあるわけです。マーケティングっていうのは、やっぱりお客様とつながるための1つの手法かなと思います。」
インタビュアー:「ありがとうございます。マーケティングって結構、10人いたら、意外と10人違う意味を伝えてきたりする言葉だと思うんですけど、今の言葉はすごくわかりやすかったというか、面白かったです。企業にとっても大事なものっていうことですね。」
まとめ:マーケティングは「お客様とつながる究極の手法」
今回は、社員・フリーランス・雇用主3つの側面からマーケティングを経験している青柳さんのお話を中心に、マーケティングという仕事についての考え方や働き方について見てきました。
今回のポイントは以下の3つです。
・マーケティングで成功する会社はコストのかけ方がクリアである
・マーケティングとはお客様とつながる究極の手法である
マーケティングで成功している企業は、共通して「投資」の考え方を持っています。
施策を実行する中で、どれを拡大させ、どれを辞めるべきか、早い段階で判断できる力がマーケターとして重要な力といえます。
また、ビジネスを成功させるためには、まずはお客様を知るということが大切です。
お客様のことを知り、その上でそれぞれにどんな価値ができるのか、相手に合わせてコミュニケーション方法を変えることも必要になってくるでしょう。