マーケターと一口に言っても、様々なマーケティング業務があり、様々な専門領域を持ったマーケターが存在します。
SEO、MA、CRMなど、横文字の難しそうな名前の分野を専門とするマーケターが多数いて、クライアント側も、さらにはマーケター側も、マーケティングの全体像を把握するのは難しいのが現状です。
全てのマーケターを一括りにマーケターとして扱い、依頼をする企業さんもいます。
しかし、実際に蓋を開けてみると、自社の課題だと分析していたことと依頼したマーケターの専門分野が的外れで、要件定義から踏み外してしまっている依頼も多くあります。
本日は、コンサルティング会社、広告会社に勤めたのち、マーケティングの総合支援の会社を起業された岸川氏にお越しいただいております。
マーケターはどのように立ち振る舞うことで成果を出すことにつながるのか、またマーケター独自の働き方についてお話を伺いましょう。
新卒で経営コンサルティングの会社に入社。中小企業に特化した経営コンサルとしての経験を積んだのち、インターネットの広告代理をする会社に転職。広告運用だけではなく、商品開発や新規事業の責任者も行いながら、事業の拡大に貢献。
その後、広告だけだけではなく、他社のSEOメディアのライターや、他の企業のマーケティングのコンサルティングに入るようになり、マーケティングを総合的に支援したいという思いから株式会社LTVマーケティングを立ち上げ、今に至る。
岸川氏の紹介・経歴
インタビュアー:最初、コンサルティング業界でお仕事をされ、マーケティングの会社に移られたということなんですけど、元々、ご自身で事業を起こそうとか会社をつくりたいみたいな思いはあったんですか。
岸川氏:実はそこまで起業しようという考え方はなかったです。経営コンサルティングに入る前、新卒時に何がやりたかったかというと、Jリーグの経営に携わりたいと思っていました。
Jリーグって、今でこそ外部人材を誘って総合的な力で盛り上げていこうみたいな話は出てるんですが、当時はすごく閉鎖的で新卒の受け入れなんて全くやってなかったんですよ。中途でも、結構コネありきみたいな形でした。
いくつものクラブにレターを送って、相性のいい機関があって、たまたまそこに空きがあれば採用されるくらいでしたので、新卒でこの領域に入るのは難易度が高いなと思っていました。
そもそもどうしてJリーグの経営に携わろうと思ったかというと、当時のJリーグには経営のプロが不足していることを問題視していたからです。
スポンサーからの天下りで経営者経験があまりない方が運営をしているケースもありました。そのために、例えば大好きなチームが債務超過になってつぶれた、つぶれそうですみたいなニュースもありました。ですので、自分がしっかりプロの経営者として運営をして、Jリーグのチームをもっと活性化させていきたいというふうに思いました。
じゃあどうすればいいかなと思ったら、新卒で入るっていうルートもあるんですが、自分が経営のプロフェッショナルになって外から呼ばれるほうが早いんじゃないかと思って、中小企業に特化した経営コンサルティングの会社を最初に選んだというのが経緯になります。
インタビュアー:そこから、紆余曲折あってマーケティング領域で事業を起こそうと思ったのにはどういう経緯があるんですか。
岸川氏:次の職場がインターネット広告代理店になった経緯でもあるのですが、当時のJリーグは今の文脈でいうDXだったりとか、オンラインで人を引っ張ってくるというところに課題感がありました。
日本代表はそこそこ人気があったけれども、Jリーグ自体の人気はそこまで上がっていないという認識もあって、自分が貢献できるところはもしかしたら、集客の部分かもしれないと思いました。
つまり、Jリーグの課題にデジタルマーケティングがあると思ったのが、マーケティングに進んだいきさつです。しかし、マーケティングをやっている中でこれはマーケティングのほうが面白いぞというふうに思考が転換してしまいました。
自分が内部でマーケティングの力を使って業界を良くするっていうやり方も、それはそれで一つありつつも、外から呼ばれて総合的な知見を持って外から支援をするという道も一つあるのではないかと思って、起業に踏み切ったというところがあります。
マーケティングの得意領域について
インタビュアー:岸川さんは経営コンサルで経営全般のところもお詳しいと思います。その上で、今はマーケティング中心で事業をされていらっしゃるとのことですが、岸川さんご自身のマーケティングの得意領域はどの辺りになるんでしょうか。
岸川氏:元々、リスティング広告周りにいたということもあって、リスティング広告と言いたいところではあるんですが。
リスティング広告を成功させるための条件として、そもそものマーケティングの戦略とリスティング広告という「出口の戦略」みたいなところが一致している必要があります。
結構いろんな会社さんに共通していたのですが、「商品をいじりましょう」とか、「商品の立ち位置から見直しましょう」とか、「訴求の表現を変えましょう」とか、コンテンツをいじることによってしっかりペルソナに合わせていく必要が出てくるケースが多かったです。
なので、どちらかというとコンテンツ作りだったりとか、コンテンツとペルソナを合わせるとか、戦略の部分のほうに強みがあると今は考えています。
フリーランスとしてのマーケティングについて
インタビュアー:以前、フリーランス的にお仕事をされていた経験もあるとのことですが、ご自身として、フリーランス的に企業さんとお仕事したときの経験とかってどんな印象をお持ちですか。
岸川氏:フリーランス的に関わったことは、会社に勤めていた時の副業としても、起業した後にもありましたが、印象としては、以前サラリーマンとして働いていたときより提案の幅、発想の幅が広がったなという感覚でした。
どうしてもサラリーマンをやっていると、その会社の商材ありき、その会社の文脈、文化ありきでの話になってしまうなと思っています。
そこのしがらみがなく企業さんと話をさせていただくことで、マーケターとしてだけではなく、人として他の部分でお役に立てることがあるかもしれないとか、あとは自分が知っている趣味的な知識の中でギブできることがあるかもしれない。じゃあ、それと、マーケティングを組み合わせると新しい事業モデルができるんじゃないかみたいなところに話がどんどん展開していくようになりました。
サラリーマンとして、例えば営業で企業さんと話をしてるより、自由になったなというのが特徴的だったと思っています。
インタビュアー:今はご自身で会社を起こされて、マーケティングを支援されていますが、今の企業さんとの関係も、サラリーマン時代とは当然違って、そういう感じなんですか。
岸川氏:そうですね。事業提案みたいな話をどんどんするようになりましたね。
インタビュアー:元々、リスティング広告から入られたってことなんですけど、やっぱりリスティングって一つの手段であって、岸川さんが今やってるのは、どっちかというと本当にマーケティング全体の支援で戦略的な提案から始まるということでしょうか。
岸川氏:そうですね。
企業のマーケティングの取り組みについて
インタビュアー:そんな岸川さんの立場から見て、企業さんのマーケティングの取り組みはいかがでしょうか。もちろん濃淡もいろいろあるとは思いますが。
岸川氏:企業さんのマーケティングの取り組みは二分化していると思っています。二分化しているというのは昔ながらの企業さんと、最近出てきたベンチャー企業さんの両極端かなと思っています。
ベンチャー企業さんはものすごく感度がいいと思っていて、われわれがマーケティングについて講釈を垂れなくても、SNSの使い方とか影響力の増やし方とかを、育つ過程で自然にインプットされてきています。
なのでわれわれよりよっぽど感度が高いこともしばしばあります。例えば、ペルソナ別にTwitterやTikTokでアカウントを分けて違う発信をしましょう、とかです。
その違う発信に、もし自分が他に好きなことがあったとしてもそれは混ぜないで、純粋にサッカーならサッカーのことだけ発信していらっしゃいました。マーケティングでは基本中の基本なんですけど、それをもう何も知らなくてもやっていらっしゃるっていうのが特徴的でした。
なので、そういう方に関しては、戦略面で間違っているケースってそこまでなくて、ちょっとだけ軌道修正をすればいいので、ピンポイントで施策の提案をしてあげるっていうのが一番スムーズなやり取りになるのかなと思っています。
一方で結構昔からずっとやってこられたような会社さんっていうのが、やっぱりデジタルでお客さんを引っ張ってくるとかそういうところのイメージが全然湧かないんですよね。イメージが湧かないので何をするのかというと、「マーケティングとは」みたいなところから始めなければいけません。そうすると、そこの前提合わせみたいなところに時間がかかってしまって、結果、当初話されていた課題っていうのも、そこが課題なわけじゃないですよねとなることがよくあります。体感的には10社いたら7社ぐらいが要件定義を外しているなという印象です。
インタビュアー:そんなにですか。
岸川氏:ここを理解してもらうのに時間がかかる場合や、アレルギーが出て理解に頭が追い付けていない場合は「ちょっと今回はよく分からないんでいいです」となってしまいます。私の力不足が大きいと思うんですが、先延ばし先延ばしに取り組みをしてしまう傾向もあるのかなと思っています。
インタビュアー:そういう企業さんはマーケティングがそれまでもちゃんとできていないし、これからもしないということなんですかね。
岸川氏:そうですね。例えばいまだに、ホームページだけ見てもこのホームページって何のためにあるの…みたいなものになってしまっていることがあります。とはいえ、今まで紹介紹介でずっとやってこれてたので、そこに力を入れなくてもいい、という思いもあるのかなとはお察ししています。
コロナ禍での営業について
インタビュアー:今コロナ禍でよく聞くのが、リアルで営業ができないので、デジタルをもっとうまく活用したいとおっしゃる企業さんもいらっしゃるとのことです。たいていそうおっしゃる企業さんって、今まであんまりデジタルマーケティングをやってない会社さんだと思いますが、そういう企業さんからお話はよく来たりしますか。
岸川氏:そうですね。特に製造業さんで多いなと。今、支援してる会社さんでも、半導体が不足していて売り上げがどんどん下がったみたいな話もあり、そこで、もうちょっとDXというか、ホームページの改革から始めて自分たちのビジネスモデルを見直していこうみたいな取り組みをされている方もいらっしゃいます。
インタビュアー:そういう会社さんって、岸川さんはマーケティングのところで支援されていますが、いわゆるDX全体もそうですけど、今でいうテレワーク、リモートワークみたいな働き方もとか、結構違いませんか。
岸川さんがお仕事する上で、結構変わってもらわなきゃいけないところが多いような気がするのですが。
岸川氏:そうですね。そもそもの文化というものがありますよね。例えば、これもちょっと業態が違うのですが、プロスポーツ選手と一緒にオンラインサロンをやっています。プロスポーツ選手って、今までずっとスポーツ一本でやってきましたし、引退しても今までのつながりから、教えることを主業務にしているので、そこまでインターネットに詳しくないんですよね。
どれぐらい詳しくないかというと、コロナになる前に、オンラインサロンなんでzoomでファンと交流しましょうっていう提案をしました。しかし、ずっとzoomってよく分かんないからいいやみたいな感じになってしまっていました。
さすがにコロナがあって、リモートでのコミュニケーションが活発になってきたのでやっと取り入れられたんですけど、そこの説得に時間がかかるようなレベルの状況ではありましたね。
なので、スポーツ選手の場合は…企業でもあるんですが、働き方や考え方って社長の嗜好性なのであんまり変わらないと思っています。なので、結構、横文字のインターネットツールが出てきただけで、尻込みしているところもあるのかなと思います。
インタビュアー:取り組み以前の失敗ですが、そういうので結構失敗してる企業さんも多いんですかね。
岸川氏:多いと思います。そうなった経緯はいくつかあると思っていて、チャレンジを全くしていなくて、チャレンジをするのが怖いとかアレルギーがあるっていうケースももちろんあるのですが、そこに対して下手な提案をされてコストがだだ漏れになってあんまりよくない体験をしたという苦い思い出がある方も一定数いらっしゃるんですよね。
インタビュアー:過去に失敗しちゃったっていうことですか。
岸川氏:そうです。なので、よく分からないものを取り入れると失敗するっていう失敗の方程式みたいなものが頭の中に浮かんでしまって、それでチャレンジできないという側面もあるのかなと思います。
インタビュアー:100%、必ず成功するマーケティング手段ってあるんですか。
岸川氏:絶対にないですね。
インタビュアー:ですよね。多分、皆さん試行錯誤されながら、PDCAってよく言いますけど、トライ&エラーの繰り返しでやられてると思うんですけど、絶対成功すると思っちゃうんですか。
岸川氏:そうですね。マーケティングだとか、特に横文字の外国語系、ツールでもそうなんですが、魔法の杖だと思われている節はあると思います。
インタビュアー:導入すればなんとかなると。
岸川氏:そうですね。マーケター目線だと、マーケティングは幾つもの要素の鎖みたいなものでできていて、その鎖のかみ合わせをちょっとずついい方向にアジャストしていく、いわゆる運用の部分です。そうすることで、中長期的に成果が出る仕組みを作りましょうっていう取り組みだと思います。
それに対して、マーケティングを知らなかった時代の自分もそうなんですが、ある程度取り入れれば、ある程度この額を投資すればこれぐらいのリターンは返ってくる魔法の杖だと思っている人はどうしてもいて、そこの意識の違いが取り組みへの姿勢だったりとか考え方に現れてくるのかなという感覚ですね。
マーケターについて
インタビュアー:今までは、マーケティング全体のお話だったんですけど、ここからマーケターやより個人に近い話をお伺いしたいです。
マーケターでもいろんな得意領域を持っていらっしゃる方がいらっしゃると思うのですが、企業さんが、そういう方々に期待するお話に近いところがあったりするんですかね。
岸川氏:マーケターに関しても、先ほどの横文字ツール等々と一緒で、マーケターっていう人を入れれば自社の課題が解決できると思われる節があります。
ただ、そういう方って意外とSNSとかを見なかったりすると思うんですが、Twitterでマーケターって検索すると、マーケターって名乗ってる人が死ぬほどずらーっと出てくるんですよね。
よくよく見てみたら、CRMを使ったマーケターの方もいますし、SEOライティングだけをやってる方もマーケターと名乗ってたりしますし、いわゆるUXのリサーチャーの方もある意味マーケターではあると思うんです。
なので、すごくいろんな要素がマーケターという言葉の中にごった煮になっているんですが、一方で企業さんはそれをまとめて同じマーケターだと思っているので、マーケターに頼めば、マーケティングのことはなんとかしてくれるという意識を持っているようにお話をされているケースもあります。そうすると、必ず企業の期待値とマーケターのできることにずれが生じるんじゃないかなと思っております。
インタビュアー:そうですね、聞いているだけでもずれると思いますね。そういう会社ってどうすればいいのでしょうか。要は、中に詳しい人もいないし分からないから外部に頼みたいと思ってると思うんですけど。
岸川氏:会社でそれをしっかり定義するのは残念ながら難しいかなと思います。例えば、汎用的なマーケター分類表みたいな書籍とか、テンプレートみたいなものが出回ればいいんですけど、出回ったところで横文字が多いので完全には理解できないと思います。マーケティングをやっている人ですら、マーケターという言葉の中の全体像がつかめていないと思います。
なので、必ず一定リテラシーがある方が間に入って、課題分解、要素分解だったりとか、要件定義のお手伝いをしてあげる必要があるんじゃないかなと思います。例えばフリーランスの方でも、セカンドオピニオンの方でもいいと思うんですが、そこがないと求めているものと全然違う人材なりソリューションが来てしまって、今までのように横文字のそれっぽいいい感じの技術を導入したのに失敗する、みたいな歴史が繰り返されるのかなと思います。
インタビュアー:岸川さんの会社でお仕事するときはその辺をすごく注意されているのでしょうか。
岸川氏:少しお伝えしたんですが、要件定義を外している会社さんが、10社いると前までは5社ぐらいだったんですが、今は7社ぐらいが要件定義を外れているなと思っています。
インタビュアー:増えてきてるんですね。
岸川氏:そうですね。というのは、いろんな種類の技術が出てきた中でいろんな種類のマーケター、役割というものも増えていますし、あと、営業のデジタライゼーション化(SNSや広告など)で今までより多くの選択肢が視野に入ってくるようになったんだと思います。
それによって、例えばインフルエンサーマーケティングとかってよく最近広告に出てくるけどいいの?みたいなことをおっしゃる方もいます。いや、あなたの業種、インフルエンサーマーケティング今も今後も絶対やらないほうがいいですみたいなケースがあります。
インタビュアー:なかなか、成果につながるかどうかをちゃんと言ってくれる会社って意外と少ないと思います。とりあえず、やりたいっていうから、じゃあやりましょうってする会社が多いのではないでしょうか。
岸川氏:確かに、うちでも再三その点は注意したけれども、経営者が最新の情報について一回PDCA回して、失敗するなら失敗するで知っておきたいというニーズはないわけではないです。その場合はどうしてもでやってしまいますが、失敗した場合はほんとに恨まないでくださいね、私は止めましたからねっていうのを話しますね。
インタビュアー:企業さんがマーケターを選定するのって実はなかなか難しかったりすると思うんですけど、その辺っていかがですか。
岸川氏:そもそもマーケター自身が、マーケターってどんな人がいるの?みたいなところをしっかり分解できてるのかどうかっていうところもあるので、そういう意味ではマーケターですら把握してないことを企業さんが判断するっていうのはなかなか難しいと思っています。
具体的な話でいうとマーケティングは、経営に関わる戦略部分、事業戦略でマーケティングに特化した部分、マーケティングの施策の部分、その中に例えばSEOだったりとかリスティングだったりとか、LPだったりとか、いろいろ分解されるわけですよね。
要件定義が合っていれば、ピンポイントで今うちは広告を回してくれる人材がいないんだ、なのでリスティング広告で、っていうのは分かるんですが、広告を回してくれる人材がいないんだ、から「いや、これ多分広告やっても商品がよくないので全然、反響来ないと思いますよ。戦略から考える必要があります。」ってなったときに、戦略が分かる人を連れてくる必要があるとなります。
ただ、広告だけできる人っていうのと、マーケティングの戦略から分解して広告に落とし込める人っていうのは人材レベルがそもそも違っていて、前者の場合は、例えば、大きな広告代理店の中で、ほんとに広告を回すところだけに特化した人材である可能性もあるんですよね。
そうなると、降りてきた要件をひたすら広告のプラットフォームに分解して落とし込むだけになってしまいます。マーケティングの戦略から入りますよっていうケースはそもそもプロダクトオーナーだったり、CMOだったり、なにかしら前後工程も含めてトータルでものを考えられる人でないといけなくなります。
そうなると、後者の人をイメージして、広告を回せる人を連れてきてくれっていう話をすると前者の人が出てくると。全然成果出ないじゃないかと。それは、選定の条件が良くないから、みたいな話になることは結構あるんですよ。
インタビュアー:そこのところをきちんとサポートできる人なり、企業なりがいないと駄目ってことですね。
岸川氏:そうですね。そこがしっかり、マーケティングという人材の中にはこういう分類があって、それに対してちゃんと要求に合う人を連れてこれるというのが重要だと思います。
インタビュアー:マーケティング、特にデジタルはこれからも、現在進行形でどんどん領域が広がるでしょうし、職種もどんどん増えてくんでしょうし、ますます細分化してくっていうことですよね。
岸川氏:そうですね。
サラリーマン時代と今を比べて
インタビュアー:ちょっとお話変わりますけど、今、会社起こされて何年目になるんですか。
岸川氏:今、4期目ですね。次の10月から5期目になります。
インタビュアー:サラリーマン時代と比べてどう変化がありましたか。
岸川氏:サラリーマン時代と比べて、例えば、収入は?みたいな話は周りからよく聞かれるのですが、おそらくフリーランスとして独立できるレベルの人は収入は倍とかになっていると思います。われわれの場合は法人なので、役員報酬を上げすぎてもよくないみたいなところがあって、収入自体は前職よりは下がっているんですが、生活水準だったりとか、経費の部分もあります。
インタビュアー:収入以外のものがありますからね。
岸川氏:はい。なんで、生活水準は全く下がっていないですし、逆に時間の自由がきくようになったというのが一番自分としてはうれしいことです。
やっぱり会社にいるときは、たとえ、フレックスとか働き方は任せるよと言われていても、他のことを考えてると罪悪感があるというのが正直なところあったんですが、そういったストレスがなくなって時間を自分のコントロール下に置くことができるようになったっていうのが一番うれしいですね。
インタビュアー:じゃあ生活スタイルは完全に自分でやりたいようにって言ったら言いすぎるかもしれないですけど、ご自身で考えてできるようになったということですか。
岸川氏:そうですね。なので、これは自分だけだとずるいので、社員のメンバーにも一定それを許しています。なので、社員のメンバーって実はうちが本業ではあるんですが、それとは別に自分のやりたいことを持っているメンバーが多かったりして、例えば、声優をやってますとか、例えば、物販で稼いでますとか。
そういったことをやりながら、じゃあそっちの予定があるならそっちを差し込んでもらってもいいですよっていう話とか、今日は午前中収録があるので収録行ってきてねみたいな話で働いていたりしますね。
インタビュアー:それは、バランスというか、裁量をある程度与えてるということですか。
岸川氏:そうですね。1週間の中でこれぐらい働いてくれればオッケーと。あとの時間の使い方は自由にしてもらっていいけど、ちゃんとカレンダーには入れておいてねという話をしています。
インタビュアー:いわゆる副業といえば副業だと思うんすけど、いわゆる副業を解禁している会社の副業とはちょっと違う感じでしょうか?
岸川氏:そうですね。副業解禁っていうのは、主業務が例えば10時から18時までしっかりあって、それ以外の時間で何してもいいですよっていう考え方だと思います。うちの場合は10時から18時の時間帯もちゃんと自分のやりたいことであれば優先順位を上げていいよという話をしているので、もう主業務の時間を10時から18時とか決めるのではなく、そのときそのとき、例えば収録が入ってくるのであれば、毎週木曜日は10時からスタートだけど、この午前中は収録のために空けちゃってオッケーで、その分他で取り戻してくれというイメージですね。
インタビュアー:それは、いわゆる評価みたいなところでいくと完全に成果というか、その方に任してるタスクがどうだったっていうところになるんですか。
岸川氏:そうですね。
インタビュアー:時間も関係ないわけですよね。
岸川氏:そうですね。なので、そういう意味では平日を少し自由にして、土日に働いてる社員の方も結構いるので、365日誰かが働いているような状態ですね。
インタビュアー:それは、強制しているわけではなく、自分で働きたいときに働いてるってことですよね、逆にいうと。
岸川氏:そうですね。結果論ですね。
インタビュアー:お休みみたいな、そういうのはプライベートなところは自分で入れたいところに入れてるってことですか。
岸川氏:そうですね。なので、平日ど真ん中にディズニーランドに行きたいってなったら、事前に言ってもらえれば、水曜にディズニーランドに行ったりとか。今のご時世そんないないですけど、そういうことも可能です。
インタビュアー:それは、とても魅力的ですね。
岸川氏:ありがとうございます。結構そういう意味ではターゲットというか、従業員さんとして来てくれる方が、主婦として子育てもしていてフルでは働けないけど、あいだあいだの時間を働けるという能力のある方を採用したいと思っています。彼女らの求めている働き方と合っているというのは最近感じますね。
インタビュアー:実際、僕も会社員時代に子育てしていて、いわゆる時短社員っていう方が周りに結構いましたけど、いろんな意味でかわいそうですよね。
大手企業の時短社員って、9時~5時で働いてる方もいたんですけど、全然周りより給料が安かったです。まだまだ、ちゃんとうまくいってるかというとあれなんで、そういう主婦とかいわゆるパラレルワークと言いますか、そういう働き方ができたらベストですよね。
岸川氏:そうですね。とはいえ、業態がやっぱり関係していると思っています。Webマーケティングの場合は、例えば、SEOのライティングを任せたりとか広告の運用を任せたりって、別に細切れの時間でもできるし、夜中やってもいいですし、朝やってもいいですし、というような業務が多いので成り立ってる部分はあるのかなと思っています。
インタビュアー:マーケティングの領域の仕事って基本そうだと僕は思ってるんですけど、なかなか企業さんにそこを説明しても、さっきの岸川さんの話と同じで難しいですよね。
岸川氏:そうですね。クリエイティブ業務なんて、例えば、朝型、夜型でパフォーマンスを発揮できる時間が全然違うと思うんですよね。例えば、コーダーの方とかって結構夜更かしの方が多くて、日中はいろいろな連絡が入って集中できないので、夜中の1時から3時がゴールデンタイムみたいな方もいるわけです。
一方で、デザイナーの方とかっていうのは朝一番、起きて頭が一番すっきりしているところで一気に作り込んでしまったほうがいい、みたいな方もいます。意外と、いわゆるコアタイムでパフォーマンスが発揮できない人種だったりするので、そこを無理やり縛ることで、フルのパフォーマンスが発揮できない状態でお互いルーズな感じになってしまうのはすごく良くないなというのはありますね。
インタビュアー:今、マーケティング領域をクリエイティブって説明しちゃってそこで話がこんがらがっちゃったりもするんですけど、今おっしゃってることにはすごく同意です。
9時~5時で働いていればパフォーマンスがすごく出るかと言われるとそういうことでもないと思うんですよ。
ふとしたときにアイデアがひらめいたりしますしね。なので、マーケティングの特性を生かした働き方って岸川さんがおっしゃってるとこにヒントがあるのかなと思います。
岸川氏:そうですね。クリエイターの話なのでずれるかもしれないんですが、ライティングとかもそういうところがあると思います。私もブログをやってたときは会社出社前の1時間で一気に3,000字ぐらい書くみたいなことをやっていました。
コンサルティングの一番の魅力
インタビュアー:岸川さんにとって、元々コンサルティングから社会人スタートされて、マーケティング業務の一番の魅力ってどういうところですか。
岸川氏:マーケティングの魅力は、ジャイアントキリングが起こせることかなと思っています。
原体験としては、インターネット広告代理店にいた頃で、自動車業界を特にやっていた時のことでした。自動車業界でリスティングっていうと大手が入ってくるところではあります。
しかし、例えばこのニッチに対して、こういうメッセージを指すっていう局所戦、ランチェスターの弱者の戦略ですね。これをしっかり徹底する。
そういったリスティングをやっていると、大手がどんどんコストパフォーマンスが見合わずに消えていくのが分かりました。それが、すごくスカッとするところだと思っています。
どんなに資本体力がなかったとしても、局所戦を取っていけば必ず勝てるところがあると身をもってわかりました。
なので、いい商品、いい戦略、いい届け方をすることによって、くり返しになりますがジャイアントキリングが起こせるというのが一番の魅力かなと思っています。
マーケティングの可能性について
インタビュアー:今マーケティング支援の会社を経営されてますけど、この先、マーケティングの可能性ってどんなところに感じますか。
岸川氏:マーケティングの可能性として、今すごく感じていることがあって、本物のプロダクトというのがどんどん届くようになってきているなあというところがあります。
どういうことかというと、今まで例えばリスティング広告とか、コンテンツマーケティングとか、文字媒体での訴求が多かったところが、最近YouTubeだったりTikTokだったり、徐々に動画媒体に移っています。
うちも、例に漏れず動画媒体の支援をやっているんですが、動画媒体って文字媒体に比べてユーザーの素直な反応が可視化されやすいです。
例えばYouTubeの場合、アルゴリズムとして一番重要なのが総視聴時間ですね。どれぐらいYouTubeのプラットフォームでその人が動画を見てくれたかっていうところなんですけど、総視聴時間を伸ばすためには、エンゲージメントも上げなきゃいけないですし、動画の展開とか話の面白さとか、そういう複合的な要素が関わってくるわけですね。
となると、視聴者の反応ってやっぱり素直なので、資本の力でごり押ししてるけどつまらないコンテンツってどんどん見向きもされなくなっていって、アルゴリズムとしても下がっていって表示が減っていきます。
なので、本当に面白い、視聴者にとっていいプロダクトだけが残ってくるような媒体にどんどんなっていると思います。
なので、これからは資本の力で殴るのではなくて、小さくても視聴者にとって価値のあるものが残っていって、それがちゃんと必要な人に届くような世界にできるようになっていくというのが、これからのマーケティングの可能性だなと考えています。
ちょっと先の展望について
インタビュアー:今、会社をやられていると思うんですけど、ちょっと先の展望をお聞かせいただければと思います。
岸川氏:元々、会社としてもそうですが、自分のミッションとして、好きなことに120パーセント力を注げるような世界をつくりたいなと思っています。
マーケティングが好きな人はもちろんいるんですが、多くの自社サービスを持ってる人ってマーケティングや集客の部分っていうのはどうしても苦しい部分でもあると思うんですね。
なので、適切な人に適切なものを届ける技術っていうのを高めることによって、クライアントが自分のやりたい、自分の届けたいサービスのみに注力できるようにしていきたいなと思っていて、そのための大きなハードルとしては、基礎的なマーケティングのリテラシーの向上だなと思っております。
先ほどの話に回帰するんですが、市場にマーケターとしてどういうプレーヤーがいて、自分のプロダクトを届けるために適切な届け方にどういうものがあって、それを、どうマッチングしていくのがベストなのかというところを前提としてしっかり理解してもらうような活動に取り組んだりとか、そういうアウトプットを出していきたいと思っています。
岸川氏にとってマーケティングとは
インタビュアー:Jリーグを経営したいというところから、コンサル業界に足を踏み入れ、その次にマーケティングに出会われてということだと思うんですけど、岸川さんにとってマーケティングとはなんですか。
岸川氏:すごく考えたんですけど、かっこいい言葉が全然思い浮かばなくて…。私の中では、「世界とつながる触媒」みたいなイメージですね。マーケティングをすることによって今まで出会うはずのなかった人たちとつながれると。
つながった結果、それでいいことが起こることもありますし、よくないこともあると思います。
よくないというのはターゲット外っていうのもあると思うんですが、自分のプロダクトを見直すきっかけにもなるので、今までの世界でインターネットが発達してから技術が整うまで何十年か時間がかかった中で、こんなにも世界の反応がダイレクトに分かる世界ってなかったのですが、それが、これから実現されていくと思うので、そういう意味でどんどんマーケティングを知ることは世界を知ることになるのかなと思います。
この話をしだすと、世界を知る、人を知るみたいな形で人の普遍的な行動原理を知るみたいな話になっていきます。
そうするとちょっと哲学っぽくなってしまうんですが、極論を言うと、人の動きを科学できるというところもマーケティングなのかなと思います。ちょっと話にまとまりがなくなってしまったんですが、そういうものと私は捉えています。
インタビュアー:将来的にはJリーグの経営に関わるというのはまだ考えているのですか。
岸川氏:そうですね。Jリーグとは関わりたいなというのはあって、Jリーグも例えば、アビームコンサルティングさんだったりとか、デロイトトーマツさんだったりとか、そういうところとパートナーを組んでプロジェクトを進めていたりするので、外部とかコンサルティングを入れる潮流はできてきているのかなと。
その中で何か一つでもJリーグにとっていいアウトプットができるようなところまでは、まだ力不足だと思うので、力をつけたときには関わっていきたいなと思ってます。
インタビュアー:岸川さん、ありがとうございました。
岸川氏:ありがとうございました。
マーケターとしての働き方
今回の対談の要点は主に2点あります。
1つ目は、マーケティングとは何を担当して、何を期待すれば良いのかという線引きができていないクライアントさんもマーケターさんも非常に多いということです。
これでは、マーケターに依頼しても、期待していた成果が出ないことになってしまいます。
ですので、マーケターを選ぶことから引き受けられたり、マーケティングの観点からの経営コンサルティングのできる企業やフリーランスの存在が大切であり、そんなスキルを磨くと必要とされる存在になれます。
2つ目は、マーケティングの仕事はクリエイティブな部分が大きい職種なので、それぞれが裁量を持って仕事にあたれるということです。理由としては、時間的な拘束に囚われず、各々が最大限のパフォーマンスを発揮できるタイミングで業務に当たれたり、他に自身の主軸となる大切なことを両立させつつ業務にあたることで、仕事へのモチベーションにもつながるからとのことでした。
決められた時間に決められた量をこなせば成果が出るという職種ではないからこそ、自由な働き方ができるということです。
マーケターという仕事に対するイメージはどう変わったでしょうか。
この記事を元に、自由な働き方のできる次世代の職業として注目してみてはいかがでしょうか。